臨床遺伝について

臨床遺伝とは、遺伝学の知識を基にして、遺伝性疾患や遺伝的要因が関与する疾患の診療、カウンセリングなどを行う医療の分野です。当院では日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医である院長が、臨床遺伝に関し外来にて様々なご相談を受け付けています。
遺伝カウンセリングでは、患者様やそのご家族に遺伝性疾患などに関する情報提供を行いつつ、リスクや今後の治療の選択肢についてなど、お話していきます。遺伝学的検査を行う場合は、専門の医療機関と連携して行い、その検査結果や疑われる疾患の管理についても各種医療機関と連携しながら行っていきます。
当院は地域にあって、患者様が適切な医療を受けられるよう、身近で寄り添ってサポートし、遺伝子リスクがある場合の予防策や生活習慣改善のご提案、症状の改善などにも取り組んでいきます。遺伝に関する不安や疑問がありましたら、お気軽にご相談ください。
臨床遺伝の主な対象疾患
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遺伝性腫瘍
多発性内分泌腫瘍症、遺伝性乳がん卵巣がん症候群、リンチ症候群、家族性大腸ポリポーシス、結節性硬化症、神経線維腫症、遺伝性びまん性胃がん、遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ症候群、リ・フラウメニ症候群 など - がんゲノム医療
- 先天性結合組織疾患
マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群、エーラス・ダンロス症候群、家族性胸部大動脈瘤・解離、ビールス症候群 など - 遺伝性循環器疾患
大動脈瘤/解離、 マルファン症候群、遺伝性不整脈、先天性QT延長症候群、ブルガダ症候群、原発性脂質異常症、心筋症、肺高血圧症 など - 遺伝性内分泌・代謝疾患
ライソゾーム病(ファブリー病、ゴーシェ病、ポンぺ病、ムコ多糖症など)、その他先天性代謝異常症 - 遺伝性難聴
- 先天奇形症候群、染色体異常症
- 遺伝性神経・筋疾患
ハンチントン病、脊髄小脳変性症、筋ジストロフィー など - 未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)
- 多因子疾患
主な症状(疾患)について
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
遺伝が原因で発症する乳がんおよび卵巣がんのことで、遺伝性乳がんは乳がん全体のうち約10%を占めると言われています。遺伝性乳がんは非遺伝性の乳がんと治療法や治療薬が異なり、卵巣がん発症のリスクも高いため、臨床遺伝専門医と乳腺外科、婦人科などが連携することが重要になります。
遺伝性乳がんを発症する原因遺伝子の代表的なものとしてBRCAという遺伝子があります。2020年4月より、一定条件を満たした場合、HBOCの診断のためのBRCA遺伝学的検査や、BRCA変異を持っている方のリスク低減卵管卵巣摘出術、リスク低減乳房切除術、リスク低減手術を受けないで検診を継続する場合の乳房のMRI検査が保険適用となっています。がん家系でありながらBRCA遺伝子検査などで変異が認められない方には、自費診療とはなりますが、遺伝性腫瘍の多遺伝子パネルによる検査もあります。
そのほかの遺伝性腫瘍
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)以外の遺伝性腫瘍としては遺伝性大腸がん(リンチ症候群)、家族性大腸ポリポーシス、 カウデン(Cowden)症候群、若年性ポリポーシス、遺伝性甲状腺癌、リ・フラウメニ症候群、網膜芽細胞腫などがあります。これらの疾患に対し、それぞれの疾患の主治医の先生と連携、あるいはご紹介し、より専門的な情報を提供できるようにしています。また、遺伝子診断で疾患の原因が明らかになった場合には、国内外のガイドラインに基づき、専門の医療機関と連携したサポートを行っていきます。
小児の先天性疾患
染色体異常や先天異常症候群、形態的異常など、症状から考えられるお子様の先天性疾患の確定診断を目指し、遺伝学検査を実施しています。お子様一人ひとりの成長や発達に応じ、疾患の推移を踏まえての合併症を引き起こす可能性の確認などを行い、予防的な対応策の実施など連携する医療機関とともに、お子様の健康管理のサポートを行っていきます。
また、次の妊娠を考えた際の遺伝の可能性や、ごきょうだい等、家族内へ疾患が遺伝することへの不安についてなど様々なご相談に応じ、
出生前診断の情報提供など、妊娠に関連した遺伝カウンセリングも行っています。
循環器領域の遺伝性疾患
遺伝性循環器疾患の主なものとしては大動脈瘤、大動脈解離、遺伝性不整脈、原発性脂質異常症、心筋症などがあります。循環器領域の遺伝性疾患が疑われる患者様に対し、病歴や家族歴をご確認し、遺伝学的評価を行って、遺伝カウンセリングを実施。疾病管理や治療選択のお役に立てられることを目指しています。